グリンデルワルト(Grindelwald)で、雲ひとつない快晴の朝を迎えました。前日は、この旅最大の目的だった通称「ミニ・アイガー北壁」、ロートシュトック(Rotstock, 2663m)のヴィア・フェラータに無事登頂。さらにアイガートレイル(Eiger Trail)も歩き、大満足の一日となりました。それでも、せっかくスイスアルプスまで来たのだから、まだ終わるわけにはいきません。「今日は、昨日とは違う景色に出会いたい。」そんな思いで、新たな絶景を求める一日が始まりました。
今日の目的地はどこにする?
この日の候補は、最後まで次の2つで悩みました。
- シュバルツホルン(Schwarzhorn, 2922m)のヴィア・フェラータ
- フィルスト(First, 2168m)→ ファウルホルン(Faulhorn, 2681m)→ シーニゲプラッテ(Schynige Platte, 2068m)を結ぶロングトレイル
最終的に選んだのは後者です。以前ツェルマットで歩いたStockhorn Ridge Trailが、岩稜歩きと大パノラマを同時に楽しめる忘れられないルートだったこともあり、今回も「山の景色を一日中楽しめるルート」を歩きたいと思いました。
ユングフラウ地方屈指の絶景トレイル
フィルストからシーニゲプラッテを結ぶこのロングトレイルは、ユングフラウ地方を代表するハイキングルートとして知られています。歩くたびに景色が変わり、ベルナー・オーバーラント三山、ブリエンツ湖、点在する高山湖、広大なアルプスの牧草地など、スイスアルプスらしい風景を次々と楽しめるのが魅力です。
コース概要
- 所要時間:約6時間
- 距離:約16km
- 地形:牧草地・高山帯
- ベストシーズン:6月中旬〜10月中旬
今回はフィルストから出発し、ファウルホルンを経由してシーニゲプラッテを終着としました。休憩や寄り道したパノラマルートも含め、実際には約6時間30分。思っていた以上に歩き応えのあるコースでした。
快晴の朝、最高の一日が始まる
部屋の窓から外を見ると、朝日がアイガーの頂をゆっくり照らし始めていました。昨日間近に見た巨大な北壁を、今日は宿の窓から眺めることができる。そんな贅沢な朝に、自然と気分も高まります。昨夜は6人部屋に4人が宿泊していましたが、幸運なことに誰一人イビキをかかず、ぐっすり眠ることができました。
宿泊した Jugendherberge Grindelwald の朝食は7時15分から。内容はシンプルながら、パンやハム、卵など必要十分で、しっかりエネルギー補給ができました。以前泊まったサースフェーの wellnessHostel4000 と比べると種類は少なめでしたが、この日の長い行程を考えれば十分満足できる朝食でした。
フィルストへ向かうロープウェイ
澄み切った朝の空気を感じながら、8時30分過ぎにユースホステルを出発。歩いて Jungfrau Ski Region Grindelwald–First のロープウェイ乗り場へ向かいます。ロープウェイが高度を上げるにつれ、眼下にはグリンデルワルトの街並み、その向こうには次々とアルプスの山々が姿を現しました。標高2168mのフィルストに到着。いよいよ、憧れのロングトレイルが始まります。
なお、ロープウェイ乗車券はSBB Mobile Appを利用して購入しました。グリンデルワルトに宿泊すると、町内バスが無料になるゲストカードを受け取れ、これを提示するとGrindelwald〜First間のロープウェイも割引になります。Swiss Half Fare Cardなど他の割引パスを持っている場合は、どちらの割引率が高いか事前に確認しておくのがおすすめです。
フィルストからロングトレイルへ出発
9時20分、フィルスト(First, 2168m)を出発し、シーニゲプラッテを目指します。空はどこまでも青く、絶好のハイキング日和です。グリンデルワルトの街からは見えなかったフィンシュターアールホルン(4274m)やシュレックホルン(4078m)が、目の前にはっきりと姿を現しました。鋭く切れ落ちた岩峰が連なる姿は圧倒的で、思わず足を止めて見入ってしまいます。
フィルスト名物の断崖絶壁の展望遊歩道「First Cliff Walk by Tissot」も、遠くからよく見えました。アイガー、ユングフラウ、ジルバーホルンを望む側の景色もまた見事で、歩き始めてまだ間もないのに「今日は本当に素晴らしい一日になりそうだ」と確信しました。
バッハアルプスゼーへ、アルプスらしい穏やかな道
最初の目的地は、美しい高山湖バッハアルプスゼー(Bachalpsee)。この区間は緩やかなハイキングコースになっていて、草原の中を気持ちよく歩いていきます。険しい岩場ではないので、軽装のハイカーや家族連れの姿も多く見られました。道中では、のんびりと草を食む牛たちの向こうにアイガーがそびえる、スイスらしい風景にも出会いました。
歩き始めて約30分、バッハアルプスゼーに到着。想像以上に透明度の高い青い湖の奥に、フィンシュターアールホルンとシュレックホルンが堂々とそびえ立ち、まるで一枚の絵画のような景色でした。写真では何度も見ていましたが、実際に立つと、そのスケール感はまったく別物でした。
ファウルホルンへ、静けさの中を登る
バッハアルプスゼーで折り返す人が多いため、その先へ進むハイカーは一気に少なくなります。急に周囲が静かになり、風の音だけが聞こえる世界。これもロングトレイルならではの贅沢な時間です。しばらく歩くと、遠くの稜線に小さな建物が見えてきました。あれがファウルホルン山頂に建つ、ヨーロッパ最古の山岳ホテルです。
バッハアルプスゼーからファウルホルン山頂までは、ゆるやかな登りが続きます。急登ではありませんが標高も高く、少しずつ体力を奪われます。一緒のペースで歩いていたハイカーと抜きつ抜かれつを繰り返しながら、ようやくファウルホルン(Faulhorn, 2681m)の山頂へ到着しました。山頂を経由せずシーニゲプラッテ方面へ抜けるトラバースルートもありますが、時間と体力に余裕があるなら、ぜひ山頂まで登ることをおすすめします。360度に広がるアルプスの大パノラマは、このルート最大のご褒美です。
山頂では、一緒に登ってきたハイカーと自然に言葉を交わし、お互いの写真を撮り合いました。彼はこのあとブスアルプ(Bussalp, 1792m)を経由してグリンデルワルトへ戻るそうですが、私はここからさらにシーニゲプラッテまで歩き続けます。こうした一期一会の出会いも、海外のロングトレイルならではの楽しみです。まだゴールまで半分以上。少し休憩を取り、再び歩き始めました。
歩くたびに変わる景色
山頂を離れて振り返ると、先ほどまで立っていたファウルホルンと、山頂を巻くトラバースルートがよく見えました。振り返るたびに新しい景色が現れ、歩いてきた道まで美しく見える。そんなところも、このコースの大きな魅力だと思います。
Pkt.2546m付近からは、ベルナー・オーバーラント三山(アイガー、メンヒ、ユングフラウ)がきれいに並んで見えました。道そのものは比較的平坦で単調ですが、それを補って余りあるほど景色が素晴らしく、まったく退屈しません。「歩いている」というより「絶景の中を散歩している」、そんな感覚になる区間でした。
やがてBerghaus Männdlenen(2344m)に到着。このあたりから、シーニゲプラッテ方面から歩いてくるハイカーとたくさんすれ違うようになります。アルプスでは、知らない人同士でも自然と笑顔で挨拶を交わす文化があり、こうした何気ないやり取りが、山歩きをより楽しいものにしてくれます。
モレーンと、再会する三山
メンドレーネン小屋を過ぎると、Ussri Sägissa(2426m)の北側をトラバースするルートに入り、これまで見えていたベルナー・オーバーラント三山が一度姿を消します。代わりに現れたのは、氷河が長い年月をかけてつくり上げた壮大なモレーン地形。山肌には削られた痕跡がはっきりと残り、アルプスの大自然の歴史を感じさせてくれます。景色の主役が入れ替わることで、このロングトレイルは最後まで飽きることがありません。
セギッサの北壁を回り込むと、姿を隠していた三山が再び目の前に現れました。特にGüwtürli(2027m)付近からの眺めは、このコース屈指のビューポイント。深く刻まれた谷の向こうにそびえる三山は、まさにスイスアルプスを代表する風景でした。ただこの時間帯は逆光になり、写真ではなかなか肉眼の美しさを再現できず、少し悔しい思いをしました。振り返ると、歩いてきたUssri Sägissaの山並みも神秘的な雰囲気をまとい、こちらもまた印象的でした。
パノラマルートを選んで
Lauchera Grätli(2020m)を過ぎると、シーニゲプラッテへ向かう道は、Oberberghorn〜Daubeを通るパノラマルートと、山腹をトラバースするルートの2つに分かれます。思っていた以上に順調に歩けていたので、せっかくならと景色の良いパノラマルートを選びました。
途中、インターラーケン方面へ目を向けると、眼下にはエメラルドグリーンに輝くブリエンツ湖(Brienzersee)と、青く広がるトゥーン湖(Thunersee)が見渡せました。アルプスの山々だけでなく、美しい湖まで楽しめるのがこのトレイルの魅力です。
Oberberghorn(2069m)から眺めるベルナー・オーバーラント三山も実に見事でした。深い谷を前景に、その奥へアイガー、メンヒ、ユングフラウが並ぶ景色は、写真で見る以上の迫力があります。一方Daube山頂は、手前の岩峰に隠れて肝心のアイガーが見えず、少し期待外れでした。この頃にはさすがに疲れも出始めていたので、無理はせず、ゆるやかな迂回ルートを選んでシーニゲプラッテへ向かいました。
ついにシーニゲプラッテへ
16時、ようやくシーニゲプラッテ(Schynige Platte, 2068m)に到着しました。歩き始めてから約6時間30分。休憩やパノラマルートも含めると、思っていた以上によく歩いた一日でした。最後は足も疲れていましたが、それ以上に達成感の方が大きかったです。
振り返ってみると、このロングトレイルは景色が次々と変化し、最後まで飽きる瞬間がありませんでした。牧草地、高山湖、岩峰、モレーン、アルプスの名峰、そしてブリエンツ湖。スイスアルプスの見どころを一日で巡るような、贅沢なハイキングコースでした。駅の近くには、景色の良いテラスを備えたレストランがあり、「まずは一杯」という気分になるには十分すぎる一日でした。
レトロな登山鉄道で下山
帰りはシーニゲプラッテ登山鉄道に乗ってWilderswilへ。標高約2,000mから一気に谷底へ下っていく車窓の景色も素晴らしく、何度も写真を撮りたくなる場所が続きました。とはいえ朝から歩き続けていたので、体はかなりお疲れモード。逆ルートでWilderswilから登山鉄道に乗ってシーニゲプラッテへ向かっていたら、間違いなく途中で何度もシャッターを切っていたと思います。ツェルマットでゴルナーグラート鉄道に乗った時のように。
最後に待っていた、この日最高の景色
こうして楽しかったグリンデルワルトの旅も終わり、Wilderswil → Interlaken Ost → Basel → Strasbourgと列車を乗り継いで戻りました。
たくさん写真を撮りましたが、振り返って一番気に入った一枚は、意外にもシーニゲプラッテで夕方に撮影したベルナー・オーバーラント三山でした。太陽が西へ傾き、アイガー、メンヒ、ユングフラウが順光に照らされたその姿は、まさに息をのむ美しさ。手前にマンリッヒェン(Männlichen)が少し入り込みましたが、それも雄大な景色の一部として悪くありません。
フィルストからシーニゲプラッテまで歩き通したからこそ、この夕景がひとしお心に残ったのだと思います。もし体力や時間に自信がない方なら、夕方にシーニゲプラッテ登山鉄道でここまで上がり、テラスでこの景色を眺めるだけでも十分価値があります。それでも、もし歩ける体力があるなら、ぜひこのロングトレイル全体を歩いてみてほしい。牧草地から始まり、高山湖、モレーン、そして最後にたどり着くこの絶景まで、一日かけて景色が移り変わっていく体験こそが、このコース最大のご褒美だと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿