フランス北東部、アルザス地方に広がるヴォージュ山脈(Massif des Vosges)。最も高いピークでもグラン・バロン(Grand Ballon、標高1,424m)とアルプスほどのスケールはありませんが、この山域にはアルザスを代表するマルチピッチクライミングエリアが2つあります。
それが
- Martinswand
- Rocher Hans du Lac Blanc
どちらも標高約1,200m前後に位置するため、真夏でも比較的涼しく、ストラスブール近郊のクライマーにとっては定番の避暑地です。
私もこれまで何度も両エリアを訪れました。どちらも素晴らしい岩場ですが、実際に登り比べてみると、それぞれに違った魅力があります。今回は、この2つの人気エリアを実体験をもとに比較してみます。
ヴォージュ山脈のマルチピッチクライミングについて
どちらの岩場も花崗岩で、ボルトが整備されたスポーツクライミングエリアです。2〜3ピッチ(約80〜120m)のマルチピッチルートが中心で、アルプス遠征前の練習場所として利用するクライマーも少なくありません。夏になるとアルザスのクライマーたちはここで練習を重ね、その後シャモニーなどアルプスへ向かう。そんな流れが、この地域ではよく見られます。
クライミングインフォメーション
クライミングトポ
トポは『EST'CALADES:TOPO d'escalade dans VOSGES DU SUD』を使用しています。
ルートファインディング
両方のエリアに共通する悩みが、ルートファインディングです。古くから開拓されてきたエリアだけあって、ルートとルートの間隔が狭く、ボルトも数多く打たれているため、登るべきルートが右に行くべきなのか左に行くべきなのか、分かりにくいことがあります。特に2ピッチ目は複数のルートが同じビレイポイントに集まっている場合が多く、そこから複数のルートが派生しているため、「右?」「左?」「これ本当に自分のルート?」と悩むこともしばしば。岩そのものより、ルートを読む力が試される岩場だと感じています。
装備の目安
- ダブルロープ50〜60m、またはシングル80m
- クイックドロー14本程度
※ルートによって必要本数は異なります。
アクセス
どちらもコルマール(Colmar)から車で約1時間。ストラスブールから日帰り可能です。
- Martinswandへ向かう途中は、マンステール村(Munster)
- Lac Blancへ向かう途中は、ケーゼルスベルグ村(Kaysersberg)
を通過します。クライミングだけでなく、アルザスらしい美しい村に立ち寄れるのも、このエリアならではの魅力です。
マンステール村と名物チーズ
Martinswandへ向かう途中にあるマンステール村は、AOC(原産地呼称統制)に認定されているウォッシュチーズ「マンステール」の産地として知られています。表面がオレンジ色でしっとりとしたチーズですが、このチーズの特徴は何と言っても強烈な匂い。購入してから長く保存しすぎると、なかなかのことになります。
友人がこのチーズをお土産に持ち帰ろうとしたところ、預けた荷物がロストバゲージに。荷物自体は数日後に無事届いたのですが、荷ほどきをすると強烈な匂いが立ち込めていたそうです。
ところが、ひと口食べると意外なほどマイルド。アルザス地方の郷土料理タルトフランベ(Tarte flambée)にのせて食べると絶品です。Munster村は、そんな強烈な匂いのチーズの村ということもあり、通過するときはついつい車の窓を開けたくなります 🤣 果たして、村自体の匂いはどうなのでしょうか。
Martinswand の魅力
Martinswandは1960年代から登られている歴史ある岩場です。アルザスでは「マルチピッチといえばここ」と言われるほど人気があります。
魅力は、
- ルート数が豊富
- マルチピッチだけでなく長めのシングルピッチも楽しめる
- 開放感ある景色
- のんびりした山の雰囲気
という点でしょう。
クライミングエリアは、大きく5つのセクターに分かれています。
1️⃣ Voies de Sortie 2️⃣ Petites Voies 3️⃣ Petit Cervin 4️⃣ Martinswand 5️⃣ Strassburgerwand
マルチピッチなら③Petit Cervin、シングルピッチなら④Martinswandと⑤Strassburgerwandがおすすめです。
ルート数は約100あり、グレード的には8a・8bクラスも存在しますが、トポをざっと見る限り、多くのルートは7a以下だと思います。小さなハングを超えるルートもありますが、どちらかといえば垂壁や緩傾斜のルートがほとんどです。
一方で人気が高いため、休日はかなり混雑します。人気ルートでは順番待ちになることもあり、ビレイポイントで渋滞することも珍しくありません。
Rocher Hans du Lac Blanc の魅力
Lac BlancはMartinswandよりコンパクトな岩場です。ルート数は約40本ほどですが、その多くがマルチピッチ。シングルピッチは少なく、「今日はマルチピッチを楽しもう」という日にぴったりです。岩場周辺は森に囲まれ、静かな雰囲気の中で登れるのも魅力。クライミングを終えたあとに湖を散策したり、夏には湖畔でのんびり過ごしたりできるのも、このエリアならではです。
実際に登って感じた違い
私自身の印象をまとめると、こんな感じです。
| Grand Voie | Martinswand | Rocher Hans du Lac Blanc |
|---|---|---|
| ルート数 | 多い | コンパクトで静か |
| ルート構成 | シングルも充実 | マルチ中心 |
| 混雑度 | 人気で混雑しやすい | 比較的空いている |
| 雰囲気 | 開放的な景色 | 山に囲まれた落ち着いた雰囲気 |
| 過ごし方 | のんびり一日過ごせる | マルチをじっくり楽しめる |
どちらも素晴らしい岩場ですが、「気軽にいろいろなルートを登りたい」ならMartinswand、「静かな環境でマルチピッチを楽しみたい」ならLac Blancがおすすめです。
キャンプするならブランシュメール湖(Lac de Blanchemer)
Martinswandへ行くなら、ぜひ立ち寄ってほしいのがブランシュメール湖(Lac de Blanchemer)です。岩場から車で15分ほど。周囲約1kmの小さな湖ですが、深い森に囲まれ、とても静かな場所でした。
私が訪れたのはコロナ禍で行動制限があった時期でしたが、それでも湖畔には多くのテントが並んでいました。普段の夏なら、さらに多くのキャンパーで賑わうのでしょう。駐車場から湖までも近く、簡易トイレもあるため、Martinswandと組み合わせた1泊2日のクライミング旅行にもぴったりです。
まとめ
ヴォージュ山脈にはアルプスのような巨大な岩壁はありません。それでも、森の香りに包まれながら花崗岩を登り、山頂からアルザスの景色を眺め、帰りには美しい村でチーズや郷土料理を楽しむ。そんな旅とクライミングを一度に味わえるのが、このエリア最大の魅力です。マルチピッチクライミングを始めてみたい人にも、アルザス旅行を少し特別なものにしたい人にも、MartinswandとRocher Hans du Lac Blancはきっと忘れられない一日をプレゼントしてくれるでしょう。

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