2013年5月、私は初めて南フランスのカランクを訪れました。切り立つ白い石灰岩の岸壁、その足元に広がる透き通った地中海。写真では何度も見ていた景色でしたが、実際に目の前にすると、そのスケールと美しさは想像をはるかに超えていました。
もっとも、この旅は最初から順調だったわけではありません。到着したキャンプ場はまさかの満員。慣れないアプローチという名のトレッキングルートでは何度も道に迷い、最終盤には南仏名物の強風「ミストラル」にも悩まされました。それでも振り返れば、そのひとつひとつが忘れられない思い出です。岩を登るだけではない。長いアプローチも、尾根から見下ろす海も、港町の夕暮れも含めて楽しむ。そんなカランクという特別な場所との、最初の出会いを振り返ります。
旅程(前半ダイジェスト)
- 5月3日 Strasbourg → Nancy
- 5月4日 Nancy → Marseille → Cassis(移動・キャンプ場トラブル)
- 5月5日 Calanques 周辺トレッキング
- 5月6日 En Vau(クライミング)
- 5月7日 Luminy(迷いながらのクライミング)
5月4日 晴れ 移動初日、キャンプ場難民からの意外な出会い
Nancy で買い物を済ませてから Marseille へ向かったのはすでに午後でした。途中で休憩を挟みながら到着したのは20時過ぎ。フランス第3の都市らしく、街はまだ活気に溢れていました。道幅の狭い街中を通る時に、窓を閉めて、ドアロックを確認するように言われたことは今でも覚えています。そこから海沿いの町 Cassis 方面へ向かいました。
しかしここで想定外の事態が起きました。目的地だった Cassis 近郊のキャンプ場「Les Cigales」に到着したのは21時過ぎ。しかし返ってきた言葉はまさかの「満員です」。「なんとかなるだろう」と思っていましたが、実際には甘かったようです。まさか断られるとは思っていなかったので焦りました。
急遽、近くのキャンプ場(10kmほど離れたところ)を教えてもらい、夜の山道を迷いながら移動し、ようやく辿り着いたのは22時過ぎでした。ここは4星のキャンプ場で、プールも敷地内にありました。疲れ切っていましたが、思いがけず良いキャンプ場に出会えたのは幸運でした。結果的には、長い移動の末に少し救われた夜になりました。
5月5日 小雨 登れない日も、カランクは成立する
朝から小雨でガッカリ 😞 まずは軽く朝ごはん。クライミングには厳しい天気だったため、便利性と予算を考慮して、当初泊まる予定をしていたキャンプ場へ引っ越すことにしました。日曜日のためか空きもあり、問題なくチェックインできました。
午後からは小雨の降る中、En Vau 方面へ散策。帰りに PORT MIOU Calendal に寄り、私はコンディションを心配して登らなかったものの、Guillaume くんと Jonathan くんはクライミング。Jonathan くんはボルダーメインで、今回が初めてのロープクライミングだそうです。それでも結構上手いので、ある意味安心でした。
曇り空で景色はイマイチでしたが、尾根と谷が入り組み、視界が開けるたびに海の青さが飛び込んできます。登れない悔しさよりも、「ここは登れなくても来る場所だ」と感じる時間でした。
5月6日 晴れ En Vau ― 長いアプローチの先にある答え
この日向かったのは En Vau。駐車場から片道90分以上歩かなければいけません。しかし歩き始めると、その距離は徐々に意味を変えていきました。白い石灰岩の尾根、時折見える海、風の音だけの時間。そして最後の下り坂を抜けた瞬間、視界が一気に開けます。小さな砂浜の両端は真っ白な壁、そして何よりも海の色が写真で見た地中海でした。
正直、クライミングエリアとしてはかなり遠い部類だと思います。長いアプローチは決して楽ではありません。しかし初めてこの景色を目にした瞬間、「ここまで歩いてきて良かった」その一言に尽きる景色でした。カランクを初めて訪れるなら、一度は足を運ぶ価値のある場所だと思います。En Vau はルートの数は少なく、易しめのマルチピッチクライミングを登るには良いエリアだと思います。
La Petite Aiguille ― Face Nord et Ouest
- Le Tord Boyau (5c) mOS
カランク最初の一本。5c としては素直で、ホールドにも迷いは少ない。ウォーミングアップにも良さそうでした。人気ルートらしく、常に誰かが取り付いていました。この一本でようやく「ここで登る感覚」が掴めました。
Sirène
- Pilier de la Sirène (L1:5c / L2:5b) mOS
ちょっとしたマルチピッチへ。本来は4ピッチ(L1:5c, L2:5b, L3:3b, L4:3b)。1ピッチ目は離陸から少し緊張感があり、数字以上の印象。そして驚いたのが2ピッチ目。トポでは 5b でしたが、体感的には 6a 近い難しさ。ホールドが見つけにくく、何度も「本当にこっちで合っているのか?」と考えながら登りました。カランク特有の石灰岩クライミングを早くも体験した一本でした。
登ったルートの本数は多くありませんでしたが、それ以上に En Vau の景色が印象に残りました。正直なところ、「クライミングをしなくても来る価値がある」と思えるほどです。砂浜もあり、多くの海水浴客で賑わっていたことに納得です。長いアプローチも含めて、カランクという場所の魅力を最初に教えてくれた一日でした。
とはいえ、実は En Vau ではトラブルも発生していました。この遠征のために購入した、お気に入りのサングラスをクライミング初日にして失ってしまったのです。慌てて心当たりのある場所を確認しましたが、すでにありませんでした。
5月7日 晴れ 迷いながらたどり着いた壁
この日は Luminy 周辺へ。Luminy には Les Calanques では珍しい高難度ルートが揃う Paroi des Toits があるエリアです。私たちは手頃なショートピッチが揃っている L'OASIS を目指すも、Col de Sugiton までは順調でしたが、どちらに行けばいいのかさっぱり分からず、その先で完全にルートを見失ってしまいました。
クライミングトポに書かれている方向と、現地の分岐が一致しない。カランクのトレッキングは想像以上に複雑で、「登りに行くための道(アプローチ)」ではなく「地形そのものを読む」必要がありました。それでも勘を頼りに海側へ向かって歩くと、突然目の前に認識できる壁、La Cathédrale が現れました。想定よりも海に近く、その圧倒的な大きさにびっくり!トレッキング自体は道も整備されており、迷った時間すら、美しい山と海を見ながら歩けるので楽しめます。
La Cathédrale ― Face Nord-Ouest
- Voie du Toit (L1: 5c) mFL
1ピッチ目は斜めに伸びるライン。カランクらしいスタンスの細かさがあり、数字以上の緊張感がありました。 - Pet en Suisse (L1: 6b+) FL
ケイブ状の壁を使うルート。ホールドは大きいが、体の振りと休み方が重要で、見た目よりずっと登りごたえがありました。
前半まとめ
この前半だけで、すでにカランクの本質は見えていました。
- 長いアプローチ
- 道に迷うトレッキング
- 素直ではない岩質
- そして圧倒的な景色
「登るための場所」というより、移動・景色・クライミングが一体になったフィールドでした。後半では、Morgiou・Sormiou での本格的な登攀と、ミストラルの洗礼へと続いていきます。
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