8月のストラスブールは連日35℃を超える猛暑。湿度は低いものの日差しは容赦なく、日陰にいても体力を奪われる暑さが続いていました。そんな週末、「涼しいスイスでマルチピッチを登らない?」と誘われ、迷う理由はありません。こうして今年もスイスアルプスへ向かうことになりました。
今回でスイス遠征は3年連続3回目。初めて訪れた頃のような「海外旅行気分」は少し落ち着き、今では毎年訪れるお気に入りの場所になりつつあります。今回は初心者でマルチピッチ初挑戦の友人も一緒だったため、難易度を抑えたルートを選ぶことになりました。目指すのは、アンデルマット近郊、ゲシェネラルプ湖(Göscheneralpsee)を見下ろす花崗岩の岩峰Bergseeschijen(ベルクゼーシイエン)。登るルートはVoie Andrea(10ピッチ・最大5a/5b)です。
エメラルドグリーンの湖を目指して
朝7時。ゲシェネラルプ湖の奥にあるホテル「Berggasthaus Dammagletscher」近くの駐車場を出発しました。朝日に照らされた湖は、氷河の雪解け水らしい美しいエメラルドグリーン。その向こうには岩山が幾重にも重なり、歩き始めたばかりなのに思わず何度も立ち止まってしまいます。「今日はいい一日になりそう。」そんな予感しかしませんでした。
トポではアプローチ約2時間となっていますが、私たちは約90分で岩場へ。とはいえ、最近あまり長時間歩いていなかったこともあり、最後の登りはかなり堪えました 😬
人気ルートから予定変更
本当は、このエリアで最も人気のあるSüdgratを登る予定でした。ところが到着すると、すでに先行パーティーが取り付いています。そこで急きょ、隣のVoie Andreaに変更。結果的には、この選択が大正解でした。静かな雰囲気の中、自分たちのペースで登ることができました。
花崗岩スラブを気持ちよく登る
グリムゼル周辺にも引けを取らない、中央スイス・アール山塊らしい美しい花崗岩。遠くから見ると緩やかに見えるスラブですが、実際に立ってみると、最初の一歩は意外と緊張します。久しぶりの花崗岩スラブ。最初は足を置く感覚を思い出せず少し慎重になりましたが、高度を上げるにつれて徐々に身体が思い出してきました。振り返るたびに広がるアルプスの景色。眼下にはゲシェネラルプ湖。これだけでも、このルートを選んで良かったと思えます。
地形を読む面白さ
このルートで最も印象に残ったのは、難しいムーブではなく、ルートファインディングそのものでした。途中、小さな岩峰へ登ったあと、一度3mほどクライムダウンし、隣の岩峰へ移る場面があります。ところが次のボルトが見えません。「右から回るのか、それとも直登なのか.....」しばらく周囲を観察しながら慎重に進みます。思い切って右へ回り込むと、その先でようやく正しいラインを発見。スポーツクライミングに慣れていると、ボルトだけを追いかけてしまいますが、アルパインルートでは地形そのものを読む力が重要なのだと改めて感じました。実際、近くのパーティーもルートを外し、少し苦労している様子でした。
リードして感じたアルパインルートの面白さ
後半5ピッチは私がリード。グレードそのものは難しくありませんが、想像以上にボルトが少なく、安心感はいつも登っているスポーツルートとはまったく違います。必要に応じてカムも使いましたが、実はほとんど使った経験がありません 😅 一本ずつ慎重に積み重ねながら登る時間は、スポーツクライミングとはまた違う楽しさがあります。「5aだから簡単」。そんな単純な話ではなく、プロテクションの取り方まで含めて、このルートの魅力なのだと思いました。
山頂から眺める絶景
クライミングを終えると、最後は尾根を100mほど歩いて山頂へ。標高2,815m。眼下にはエメラルドグリーンのゲシェネラルプ湖。その向こうには、ウーリ・アルプス最高峰のDammastock(ダマシュトック、3,630m)をはじめとする、迫力あるウィンターベルク山塊(Winterberg)の氷河群。スイスアルプスの山々がどこまでも続いています。
山頂では30分ほどゆっくり昼食。吹き抜ける風は涼しく、歩いてきた疲れも忘れてしまうほどの景色でした。「この景色を見るために歩いてきたんだ。」そう思える、最高のランチタイムでした。
下山の方が大変だった
このルートは懸垂下降ではなく、登山道を使って下山するのが一般的です。「普通の登山道かな。」そんな軽い気持ちで歩き始めましたが.....これが想像以上でした。
Bergsee-schijenlücke までは順調。ところが、その先にはヴィアフェラータの初級〜中級程度はありそうな岩場が待っています。さらに延々と続くガレ場。気が付けば、「今日はクライミングじゃなく登山だったかも。」そんな気分になっていました 😆
振り返ると、つるりとした花崗岩の岩峰が夕日に照らされ、美しく輝いています。苦労して登った岩壁を見上げる時間も、マルチピッチクライミングならではの楽しみです。ちなみに近くには、本格的なヴィアフェラータ Via ferrata Krokodil(K3)もあります。吊り橋も設置されているようなので、機会があれば歩いてみたいですね。
長い一日の終わり
駐車場へ戻ったのは16時30分。朝7時に歩き始めてから、およそ9時間半。クライミングだけではなく、アプローチも下山も含めて、本当に一日たっぷり山を楽しみました。駐車場のテラスで冷たい飲み物を片手に反省会。疲れているはずなのに、不思議と誰も急いで帰ろうとはしません。こういう時間も遠征の楽しみです。
アンデルマットのキャンプ場で一泊
この日は Gotthard Camping Andermatt に宿泊。山に囲まれた静かなキャンプ場で、宿泊代に Wi-Fi とシャワーも含まれており、設備も清潔でした。本当は山に囲まれていて雰囲気の良さそうなツェルトプラッツ・マットリ(Zeltplatz-Mattli)キャンプ場を予約したかったのですが満員。それでも、アルプスの涼しい空気の中で過ごす夜は十分に快適でした。テントの前で一日の出来事を振り返りながら過ごす時間も、ホテル泊では味わえない旅の楽しさです。
この日の行動記録
初心者を含む3人で登攀。ルート自体の難易度は高くありませんが、ルートファインディングやプロテクションの少なさなど、アルパインクライミングらしい要素が詰まった一本でした。必要に応じてカムも使用。パートナーのAndrea 君もプロテクションが少なく感じたそうです。
長いアプローチと下山を含めると、決して楽なルートではありません。それでも、ゲシェネラルプ湖を見下ろしながら登る花崗岩のスラブと、山頂から眺めるアルプスの絶景は、その苦労を忘れさせてくれるほど素晴らしいものでした。
0 件のコメント:
コメントを投稿