ヨーロッパで最も美しいとも言われるフランス南東部、プロヴァンス地方に位置するヴェルドン渓谷 (Gorges du Verdon)。白い石灰岩の大壁と、エメラルドグリーンに輝くヴェルドン川が織りなす景観は、「ヨーロッパで最も美しい渓谷のひとつ」と称されています。
そしてこの場所は、世界中のクライマーにとって憧れのマルチピッチクライミングエリアでもあります。
谷底まで数百メートル切れ落ちた断崖。
懸垂下降で取り付きへ向かう独特のアプローチ。
そして見渡す限り続く白い石灰岩の大壁。
私にとってもヴェルドン渓谷は長年憧れていた場所のひとつでした。
今回、私たちは6泊7日の日程でヴェルドン渓谷を訪れ、以下のルートに挑戦しました。
- ✅ Des Trous de première classe(TD 6b > 6a+, II, P1, 100m)
- ✅ La Dérobée + Le Rasoir(TD 6c? > 5c+, 180m)
- ✅ Les Deux Doigts Dans Le Nez(TD 6a+ > 6a+, 150m)
- ❌ La Demande(TD 6a > 6a, 敗退)
完登できたルートもあれば、準備不足を痛感して敗退したルートもあります。しかし振り返ってみると、その成功も失敗も含めて、ヴェルドン渓谷らしい忘れられない遠征になりました。
この記事では、実際に登ったルートの記録に加えて、トポ・装備・キャンプ場・グレード事情などをまとめます。各日の詳細は個別の記事をご覧ください。これからヴェルドン渓谷にクライミングに行く方の参考になれば嬉しいです。
目次
- ヴェルドン渓谷とはどんな場所?
- ヴェルドン渓谷はなぜクライマーの聖地なのか
- クライミングシーズン
- 実際に登って感じたヴェルドンの難しさ
- 使用したクライミングトポ
- クライミング用品
- クライミングエリアへのアプローチ
- 今回登った(登れなかった)マルチピッチルート
- 宿泊:Camping Boulogne
- ラ・パリュ周辺のお店
- 番外編:あれば便利な装備
ヴェルドン渓谷とはどんな場所?
ヴェルドン渓谷は、フランス南東部のアルプ=ド=オート=プロヴァンス県に位置する大峡谷です。ヴェルドン川の全長は約25km、川幅は6〜100m、峡谷の深さは200〜1500mにも及びます。石灰岩の断崖が垂直に切れ込み、頂上から下を覗くと吸い込まれそうなほどの迫力です。
「フランスのグランドキャニオン」と呼ばれることもありますが、実際に訪れてみると、その景色はまったく別物です。切り立った白い断崖。吸い込まれそうな深い峡谷。そして太陽の光を受けて輝くターコイズブルーの川。写真では何度も見ていた景色ですが、実際にその縁に立ったときのスケール感には圧倒されました。クライマーでなくても十分に訪れる価値のある場所だと思います。
ヴェルドン渓谷はなぜクライマーの聖地なのか
ヴェルドン渓谷は世界でも屈指のマルチピッチクライミングエリアで、1000を超えるルートがあります。難易度は初心者から上級者まで対応し、フレンチグレードで5c〜8bのレンジが中心です。岩質は石灰岩で、フェイスクライミングが主流。クラックやオーバーハングは少なめですが、近年は様子が変わってきており、2023年にはフランスのクライマー Seb Bouin が開拓・完登した世界最難関ルート DNA (9c?) など、ハードなオーバーハングのシングルピッチルートも増えています。
一部のルートは峡谷を歩いてアプローチできますが、基本的には懸垂下降で取り付きに向かう形式です。実際に登ってみて感じたのは、「登る前にまず下りる」という独特の構造が、このエリアならではの緊張感を生んでいるということです。つまり、一度降りると基本的には登り返すしかありません。
クライミングシーズン
ベストシーズンは秋(9月中旬〜11月中旬)。暑さが落ち着き、非常に乾燥しています。標高約1000mに位置するため冬はかなり寒く、春も天気次第で寒さを感じることがあります。夏は暑いものの、日陰の岩を選べば登れます。バカンスシーズンでもあるため、ラフティングやカヌーで賑わう観光客とも一緒になる時期です。
実際に登って感じたヴェルドンの難しさ
ヴェルドン渓谷のグレードは「辛い」と言われていますが、実際に登った印象では、ルートによって差があるというのが正直な感想です。トポのグレードに大きな不満を抱いたことはありませんが、ロケーションによって体感に誤差が出ることもあります。足元に広がる数百メートルの空間。見下ろすと小さく見える道路や川。慣れていないと、それだけで普段の実力を発揮しづらくなります。そのため、限界グレードに近いルートをトライする際は注意が必要です。
特に、懸垂下降で取り付くルートはエスケープルートがない限り必ず登り返さなければならないため、慎重な行動が求められます。私たちが La Demande で敗退を選んだのも、この「登り返せない」という条件があったからこそでした。
今回登ったルートでは、Des Trous de première classe の6bはしっかり6b、La Dérobée の6c?は体感的には6b+程度に感じました。一方で高度感やランナウトによるプレッシャーは日本やドイツのスポートルートとは比較にならず、数字以上に緊張感があります。
使用したクライミングトポ
ヴェルドン渓谷のトポは大きく2種類あります。
- Verdon 2017 - 52 ans et 520 voies d'escalade au Verdon
- La rive gauche, Grimper à Aiguines - Verdon rive gauche
私たちが使用したのは前者(最新版が入手できず、旧版を使用)です。
トポは、ラ・パリュの小さなクライミング用品店をはじめ、本屋やオリーブオイル屋でも購入できました。キャンプ地で出会ったクライマーが持っていた最新版を見せてもらいましたが、大きな変更はなく、新しいルートが追加された程度でした。
クライミング用品
マルチピッチには60mのダブルロープが必要です。クイックドロー16〜18個でほとんどのルートに対応できますが、トポを見ると22個必要な50mルートもあり、これはほぼ2ピッチ分の装備量で少しビビりました 😅 La Demande のようなクラシックルートを登る場合はカムやナッツも必要です。シングルピッチのスポーツルートには70mのシングルロープが必要です。
各ルートに必要な装備はトポに記載されているので、事前確認をおすすめします。
クライミングエリアへのアプローチ
ラ・パリュ=シュル=ヴェルドン (La Palud-sur-Verdon) 周辺に宿泊すれば、Escalès・Eycharme などのエリアへのアクセスが便利です。サントクロワ湖周辺に宿泊する場合は、移動に1時間以上を見込む必要があります。一部道路は一方通行で、バカンスシーズンには渋滞も発生するため、事前のリサーチが重要です。
クライミングエリアによって異なりますが、基本的には駐車場から懸垂下降でルートの取り付きに向かう形式です。トポには懸垂下降ポイントと、1回ごとの下降距離が明記されています。
今回登った(登れなかった)マルチピッチルート
Escalès - Carelle Aval Les Deux Doigts Dans Le Nez
全ピッチが体感的にも6a+で統一されたルート。最後のピッチを除いてボルト間隔も比較的近く、登りやすいルートでした。L2はトラバースなのでロープの流れに注意が必要ですが、このグレードを登りたい方には最適です。L5をリードした際、出だしのトラバースでホールドを探しきれず痛恨のテンション。後で上の方にホールドがあったと知り、悔しい思いをしました。
Escalès - Dérobée / Castapiagne La Dérobée (variante) + Le Rasoir (variante)
L2は La Dérobée のバリエーション(6c?)を登りましたが、実際にはそこまで難しく感じませんでした。体感は6b+程度。オリジナルルートの La Dérobée(L2: 6a)も魅力的なラインに見えました。
Moyen Eycharme - Monier Des Trous de première classe
L2(6b)はホールドを探す際に腕がすぐパンプするため、休めるタイミングが重要です。一方L4(6b)はL2より易しく感じました(6a+ぐらいかもしれません)。あと1ピッチあれば、より満足できるルートだったと思います。
Escalès - Terrasse médiane La Demande(敗退)
ヴェルドン渓谷で登るクライマーにとって必須とされる歴史的ルート。今回の遠征でも最も楽しみにしていたルートでした。実際に取り付きまで行き、1ピッチ目を登ってみると岩質も素晴らしく、人気ルートでありながら思ったほど磨かれていません。「これは面白い」そう思いました。しかし、ボルトは所々に打たれていましたが、カム・フレンズがもう少し必要と判断し、敗退しました。悔しかったですが、無理をしなかった判断は正しかったと思います。再訪の機会があれば、ぜひトライしたいルートです。
宿泊:Camping Boulogne
周辺には Camping Bourbon や Camping municipal - le Grand Canyon もありますが、訪問時期(10月)には Camping Bourbon は既に閉鎖、Camping municipal もウェブサイト上は閉鎖表示でした(実際は営業していたようです)。4〜9月なら選択肢が増えますが、それ以外の季節は閉鎖されるキャンプ場が多いので注意が必要です。
もう一つの選択肢:L'Auberge de jeunesse de la Palud sur Verdon
25 chemin de Boulogne Route de la Maline, 04120 La Palud-sur-Verdon
2021年9月にヴェルドン渓谷を訪れたクライミング仲間が利用したユースホステルです。
ラ・パリュ=シュル=ヴェルドン周辺のお店
小さなスーパーマーケットがありましたが、季節的な事情(10月)からか、6泊する間に肉類の補充がなく、品数が徐々に減っていきました。野菜は比較的補充されていたようです。
パンは地元のパン屋で購入可能。チーズ・燻製肉・はちみつ・オリーブオイル・地元ビールを扱うお店もありました。クライミング用品店もありますが、期待しすぎるとがっかりするかもしれません 🤔
番外編:あれば便利な装備
ヴェルドン渓谷のマルチピッチは懸垂下降で谷に降りてから取り付くルートが多くあります。今回の自己確保には DYNADOUBLECLIP (Beal) を使いましたが、ペツル (PETZL) のコネクトアジャストも便利だと思います。懸垂下降を頻繁に行うヴェルドンでは、デュアルコネクトアジャストの方がさらに使いやすいかもしれません。
また、登り返しができないと困る場面も多いため、ペツル TIBLOC(タイブロック)やマイクロトラクションがあると安心です。
ヴェルドンは決して気軽な岩場ではありません。行動時間は長く、高度感もあります。しかし、フレンチグレード6a前後をマルチピッチで安定して登れるクライマーなら、十分に楽しめる場所だと思います。私たちは、敗退があり、ヒッチハイクがあり、思い描いていた通りには進まなかった5日間でしたが、それでもヴェルドン渓谷は、もう一度訪れたいと思わせる特別な場所でした。次にこの渓谷に立つときは、今度こそ La Demande を登り切りたいと思います。
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