雨にたたられた初日、グレードに恐る恐る慣れていった2日目。そんな助走を経て迎えた3日目、いよいよ私たちは「マルチピッチ」という新しい扉を開けることになりました。
青空と強風の朝
ヴェルドン渓谷 (Gorges du Verdon) で迎える3日目の朝。前日とは一変して、空には眩しいほどの青空が広がっていました。ただ、手放しでは喜べません。身体を持っていかれそうなほどの強い風が吹き荒れていたのです。
この日挑むのは、ヴェルドン渓谷でも最も歴史的なルートのひとつ、La Demande (max 6a)。グレード自体は6aと聞くとさほど身構えるほどではありませんが、このルートの本当の凄みは「長さ」にあります。高低差はなんと320メートル、12ピッチにも及ぶ長大なマルチピッチルート。まさにヴェルドン渓谷のシンボルとも言える1本です。
取り付きまでの道のり
明るい時間内に登り切れるかという不安はありましたが、グレード的には問題ないという自信を胸に、朝8時ごろキャンプサイトを出発しました。まずは前日に下見しておいた懸垂下降(ラッペル)ポイント、Les Dalles Grises (D+ 5c>5c、I、P1) へ順調に到着。
胸の高鳴りを感じながら、午前8時30分に懸垂下降を開始。4人で行動していたため予定よりも大幅に時間がかかり、ようやく登り始められたのは午前11時半。ここまでの期待と興奮は最高潮に達していました 😆
いよいよマルチピッチ開始、しかし……
🐢 L1:6a 👱🏻♀️ L2:5c ⛔️ L3〜L12は未到達
ヴェルドン渓谷での初めてのマルチピッチクライミングが、いよいよ始まりました 😆 ところが、登り始めて間もなく予想外のトラブルが発生します。
先行していたクライミング仲間のペアが、「ボルトとボルトの間隔が広すぎて、カムやフレンズ、キャメロットが必要な状況だ」と判断し、L2での敗退を提案してきました。私たちも多少のカム類は持参していましたが、量が足りないとの主張でした。
個人的には「まだ大丈夫そうだけど」という感覚もありましたが、リスクを最小限に抑えたいという仲間の意見を尊重し、結局L2での敗退を決断。私個人としてはL1をリードした後での敗退、という結果になりました。風が容赦なく吹きつける中で下した決断は、その後じわじわ体に染みてくる寒さと、どこか重なって見えました。
L1をリードで登った印象としては、人気ルートながらホールドの磨かれ方は思っていたよりも少なく、ボルト間隔は広いものの適切な位置に打たれている印象でした。少なくともL1はカムやフレンズがなくても問題なさそうです。それより堪えたのは風の強さでした。4人2パーティで登っていたため待ち時間が多く、ビレイ中も風に晒され続けて、体の芯からじわじわと冷えていきました。
ヴェルドン渓谷での初めてのマルチピッチクライミングは、思いがけない展開になりましたが、これもまた、マルチピッチクライミングの醍醐味なのかもしれません 🤣
ところが、ここで新たな問題が発生します。あっさりと敗退したことで、今度は「車を駐車している Belvédère de Trescaire bas まで、どうやって戻るか」という課題が浮かび上がってきたのです。
帰り道は、まさかのロングハイクへ
私たちは4人で行動していましたが、車は2台。1台は懸垂下降をした近くの Belvédère de Trescaire bas に、もう1台はキャンプ場のあるラ・パリュ=シュル=ヴェルドン (La Palud-sur-Verdon) に停めていました。
議論の結果、Belvédère de Trescaire bas へ戻るのではなく、Sentier du Pas de la Beu からトレッキング道の Sentier Blanc-Martel (Gorge du Verdon) を歩き、Grand Canyon Verdon Tunnel du Baou を抜け、Couloir Samson / Point Sublime を経由して、キャンプ場のあるラ・パリュ=シュル=ヴェルドンまで戻ることに 🚶🏼♀️🚶🏼♂️
Point Sublime から La Palud-sur-Verdon までは7kmほどの道のり。しかし4kmほど歩いたところで、私たちはすっかりへとへとになってしまいました ☹️😖
人生初のヒッチハイク
そんな中、思いがけずヒッチハイクに成功 👍🏻 親切な人というのは、本当にいるものです。
ラ・パリュ=シュル=ヴェルドンのキャンプサイトに車を停めていたOscarくんが、親切なスイス🇨🇭からの旅行者グループの車に乗せてもらい先にキャンプサイトへ到着。そこから彼の車で、残りのメンバーを拾いに来てくれました。
今になって思えば、ラッキーだったのは2台目の車がキャンプサイト側に停めてあったこと。もしBelvédère de Trescaire basへ戻る選択をしていたら、もう少し苦労していたはずです。
歩いて引き返した Sentier Blanc-Martel 自体は道がしっかりしていて、迷うことはありませんでした。ただし2日前の激しい雨の影響で、トンネル内 (Grand Canyon Verdon Tunnel du Baou) には水たまりができていて歩きにくく、靴も靴下もすっかりびしょ濡れに。そしてこのトンネル、想像以上に長いんです。携帯電話のライトでも何とかなりますが、ヘッドランプを持っていくことを強くおすすめします。
この日の夕食は、日本米と野菜炒め。お肉がなかったので、「これはまさかLa Demandeを途中で敗退したことへの罰ゲームなのでは」と冗談で聞いてみたのですが、単純にたまたまお肉がなかっただけのようでした 😆
この日の敗退から得た教訓
- クライミングトポをしっかり確認し、道具の準備と、敗退する場合のエスケープルートを事前に把握しておくこと
- 後から考えると、最初から Belvédère de Trescaire bas に1台目を駐車し、2台目で Belvédère du Couloir Samson まで向かい、Sentier Blanc-Martel を歩いて Grand Canyon Verdon Tunnel du Baou を抜けて La Demande の取り付きへ向かう方が、Les Dalles Grises からの懸垂下降より短時間で到着できたはず
早々に敗退という結果に誰も不満を口にしませんでした。それどころか、ハイキング中はお互いの写真を撮り合い、美しい景色を楽しみながらの道のりに。Point Sublimeからの舗装路に出てからも黙々と歩を進めるその時間が、不思議と仲間との距離を縮めてくれた気がします。それが、翌日からのクライミングをとてもスムーズなものにしてくれました。
クライミングでは敗退したのに、なぜか「いい一日だった」と思えたのは、たぶんこの絆のおかげです。初日と2日目は、思い描いていたヴェルドン渓谷でのマルチピッチクライミングとはほど遠いものでしたが、その後の3日間は天候にも恵まれ、ヴェルドン渓谷でのマルチピッチクライミングを存分に満喫することになります。
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