前日のイェギホルン(Jägihorn, 3206m・K5)では、青空の下で素晴らしいアルプスの景色を楽しむことができました。
しかし、翌朝。
窓の外に広がっていたのは、昨日とはまったく違う表情のサースフェーでした。空はどんよりと曇り、山々は雲の中。時々、雲の切れ間から青空が見えるものの、すぐにまたガスに覆われてしまいます。
「今日は大丈夫かな……。」
少し不安になる天気です。それでも、この日は予定通り、サースフェー近郊のヴィア・フェラータ、ミッタグホルン(Mittaghorn / Mittagshorn, 3144m・K3)へ向かうことにしました。そして、天候が許せば、下山後にどこかの村を観光してからストラスブールへ戻る予定です。
悩ましい天気と下山ルート問題
朝7時30分。
昨日と同じように、宿泊していたwellnessHostel4000で朝食をいただきながら、もう一度天気予報を確認します。パンやハム、野菜、コーヒーでしっかりエネルギー補給をしながら、スマートフォンとにらめっこ。予報では、少なくともサースフェー周辺は15時頃までは雨の心配はなさそうでした。問題は、山の上の天気。
そして、もう一つ気になっていたことがあります。それは、ミッタグホルンからの下山ルートでした。
ミッタグホルンへのルートと不安だった下山
ミッタグホルン(3144m・K3)は、サースフェーからロープウェイでモレニア(Morenia, 2550m)まで上がり、そこからヴィア・フェラータの取り付きまで約90分。ヴィア・フェラータ自体も約90分ほどと言われており、登頂だけなら比較的短時間で楽しめるルートです。
しかし、問題はその後。
山頂からどのように下山するのか、詳しい情報がなかなか見つかりませんでした。通常のルートでは、プラッティエン(Plattjen, 2570m)方面へ下るようですが、この時期はリフトが運休している可能性があります。
昨日、観光案内所でもらったヴィア・フェラータの案内には、「ブリタニア小屋(Britanniahütte SAC, 3030m)方面へ下山」と書かれていました。実際にはブリタニア小屋へ行くのではなく、エギナーヨッホ(Egginerjoch, 2989m)を経由し、氷河を越えてフェルスキン(Felskinn, 2989m)へ戻るルートです。
ただ、このルートがどれくらい時間がかかるのか、ネットで調べても具体的な情報を見つけることができませんでした。地図を見る限りでは、山頂から標高差約600mほど下り、その後は大きなアップダウンもなくフェルスキンへ向かえそうです。「雨が本格的に降る前には戻れるはず。」そう判断し、予定通りミッタグホルンへ向かうことにしました。
当日の行動記録
案内板を見ると、取り付きまで約1時間30分、山頂まで約3時間30分とのこと。イェギホルンのような本格的なK5ルートではありませんが、標高3000mを超えるアルプスのヴィア・フェラータ。天気だけが少し気になります。
ガスに包まれたアルパイントレイル
歩き始めると、周囲はすっかりガスの中。晴れていれば素晴らしい景色が広がっているはずですが、この日は白い霧に包まれた幻想的な世界でした。幸い、アルパイントレイルのマーキングは非常にしっかりしています。マーキングや案内を確認しながら、ひたすらヴィア・フェラータの取り付きへ向かって歩いていきます。視界が悪いだけに、ルートが明確に示されていることは本当にありがたいです。
アルプスの住人、シャモアとの遭遇
歩いていると、この辺りから何度もシャモアの姿を見かけるようになりました。
「こんな場所に普通にいるんだ……。」
人間よりも、この山を知り尽くしている存在ですね。岩場の上を軽々と移動する姿を見ると、さすがアルプスの野生動物。思わずテンションが上がります。
途中、最初のワイヤーが設置された場所がありました。まだ本格的なヴィア・フェラータ区間ではなく、確保器は使用せずに先へ進みます。
(※岩場では状況に応じた判断が必要です。)
一瞬だけ姿を現したサースフェー
しばらくすると、突然ガスが薄くなりました。その瞬間、下の谷にサースフェーの村が見えました。宿泊しているwellnessHostel4000も確認できました。改めて見ると、サースフェーは本当に小さな村です。天気が良ければ、ここからは素晴らしい谷の景色が広がっていたのでしょう。今回は残念ながら一瞬だけの眺望でしたが、ガスの中で突然景色が開ける瞬間は、それはそれで特別な感じがしました。
シャモアとルート案内
しばらくすると、Gemsriggの標識に到着しました。スイス国旗が掲げられているのかと思いましたが、実際には黄色い旗でした(笑)。そして、上を見上げると……。
岩の上から、立派な角を持ったシャモアがこちらを見下ろしています。
「いや、そこ……通り道なんだけど😄。」
こちらの存在など気にする様子もなく、堂々と岩の上に立つ姿はまさに山の主。ここではルート案内があり、下山方向についても詳しく表示されていました。矢印を見ると、やはり下山はブリタニア小屋(Britanniahütte SAC, 3030m)方面へ向かうルートになっています。これで少し安心しました。
いよいよヴィア・フェラータへ
Gemsriggを越えると、いよいよ本格的なヴィア・フェラータ区間の始まりです。しかし……目指すミッタグホルン(Mittaghorn, 3144m)の山頂は、まったく見えません 😬
晴れていれば、眼下にはサースフェーの谷や4000m級の山々が広がっているはずですが、この日は白い霧の中。少し不気味な雰囲気もありますが、逆に普段とは違うアルプスの表情を見ることができました。
果たして、この先に山頂は本当にあるのでしょうか。ガスの向こう側を目指して、さらに登っていきます。
ミッタグホルンのヴィア・フェラータは、難易度K3。前日に登ったイェギホルン(Jägihorn, 3206m・K5)と比べると、技術的にはかなり易しく感じました。
ワイヤーや足場もしっかり整備されています。途中、一部空中に出るような高度感のある場所もありますが、ボルトも多く設置されて、クライミング経験があれば特に問題なく通過できるレベルだと思います。ただし、標高は3000mを超えています。天候が悪い場合や、高度に慣れていない場合は、難易度以上に疲労を感じるかもしれません。
ガスの中を一歩ずつ登っていきます。周囲の景色はほとんど見えませんが、逆に視界が限られていることで、目の前の岩とルートだけに集中できます。晴れた日の開放的なヴィア・フェラータとは違い、まるで雲の中を登っているような不思議な感覚でした。「この先に本当に山頂があるのかな?」そんな気持ちになりながら、黙々と高度を上げていきます。
ミッタグホルン(Mittaghorn, 3144m)山頂
モレニア(Morenia, 2550m)から歩き始めて約2時間。ついにミッタグホルンの山頂に到着しました。
正直なところ、ヴィア・フェラータ自体は思っていたよりもあっという間でした。しかし、この日のガスに包まれたルートは、景色が見えない分、精神的な緊張感がありました。そのため、山頂標識を見つけた瞬間は、「無事に着いた!」という安心感の方が大きかったです(笑)。
もちろん……期待していた360度のアルプス大展望はありません。山頂から見えるはずのミシャベル山群も、4000m峰も、すべて雲の向こう。少し残念ではありますが、これも山の一つの表情ですね。
山頂からの下山ルート確認
山頂には、下山方向を示す案内もしっかり設置されていました。ここで改めて確認すると、以下の表示がありました。
- プラッティエン(Plattjen, 2570m)方面:約90分
- ブリタニア小屋(Britanniahütte SAC, 3030m)方面:約3時間
やはり、今回予定しているルートは通常より時間がかかるようです。でも、これで方向は明確になりました。ガスの中で道迷いだけは避けたいので、案内表示があることは本当に助かります。
ガスの中をひたすら下る
山頂からは、まず谷へ向かって一気に下っていきます。地図で見ると、この区間は標高差約600mを直線的に下るルート。実際に歩いてみても、かなり急な下りでした。途中、左へ曲がれそうな踏み跡があり、「こっちかな?」と少し迷いましたが、案内がなかったため、そのまま谷方向へ進みます。視界が悪い日は、こうした小さな判断でも少し緊張します。
しばらく下ると、少しずつガスが薄くなってきました。その瞬間、谷の奥に大きな湖が姿を現します。シュタウゼー・マットマルク(Stausee Mattmark)です。大きなダム湖が谷の奥に広がる景色は迫力があります。晴れていれば、きっと素晴らしいアルプスの景観として楽しめたのでしょう。それでも、雲の切れ間から突然現れる景色には、思わず足を止めてしまいました。
この写真の手前でハイカーさんと出会う
初めて出会ったハイカー
さらに下っていくと、この日初めて他のハイカーさんに出会いました。年配のスイス人ご夫婦です。彼らはフェルスキン(Felskinn, 2989m)方面から歩いてきたとのことで、持っていた地図を見せてもらいながら現在地と進む方向を確認することができました。ガスで周囲が見えない状況だっただけに、人と出会えた安心感は大きかったです。短い会話でしたが、山ではこうしたちょっとした交流が本当にありがたいですね。
ここから先も、まだフェルスキンまでは距離があります。ガスは晴れたり、また濃くなったり。そして時々、小雪が舞い始めました。🌨️❄️「9月なのに雪……。」アルプスの標高3000m付近らしい天候です。寒さを感じながらも、フェルスキンを目指して歩き続けました。
氷河を越えてフェルスキン(Felskinn, 2989m)へ
ガスと雪の中を歩いたアルプス縦走。フェルスキンまで残り1時間という案内を見つけた時は、正直ほっとしました。この日は天気が悪く、周囲の景色を楽しむことはできません。しかし、ガスに包まれたアルプスの山道は、晴れた日とは違う緊張感がありました。視界が限られている分、足元のルートやマーキングを確認しながら、一歩ずつ慎重に進みます。晴天の下で見るアルプスとは違い、雲の中を歩いているような感覚。これはこれで、なかなか貴重な経験です。
エギナーヨッホ(Egginerjoch, 2989m)峠
ようやくエギナーヨッホに到着。ここまで来れば、フェルスキンまではもう大きな不安はありません。晴れていれば、素晴らしいハイキングだったと想像できますが、この日はいつ雨が降り出すか分からない空模様。景色を楽しむ余裕よりも、「早くフェルスキンまで戻ろう」という気持ちの方が強かったです😁
最後の難関?氷河越え
そして、ここから今回のルートの最後のハイライト。氷河歩きです。事前に地図を見た時は、「氷河を越えるって大丈夫なのかな?」と少し心配していました。しかし、実際に歩いてみると、この時期の氷河は雪に覆われた状態で、しっかりとしたトレースもありました。
途中で出会ったスイス人のご夫婦も、「この時期なら問題ないよ」と教えてくれていた通り、登山靴で慎重に歩けば特別な装備が必要な状況ではありませんでした。もちろん、氷河の状態は季節や天候によって変化するので注意は必要ですが、短い距離ながらほぼ3000mの場所で氷河の上を歩くという経験は、とても印象に残りました。
フェルスキン(Felskinn, 2989m)到着
ようやくフェルスキンに到着。ロープウェイ駅から見えるスキーゲレンデ。普段なら「ここでアルプスの絶景を眺めながら休憩!」というところですが……。この日はガスと寒さの影響もあり、あまり長居する気にはなれませんでした(笑)。体も少し冷えてきたので、迷わずロープウェイへ。🚠サースフェー(Saas-Fee)の村へ戻ります。
ヴィア・フェラータ・ミッタグホルン まとめ
⏱ 所要時間:約4時間30分(モレニア〜フェルスキン)
今回のミッタグホルンは、正直なところ、期待していたような大展望を楽しむことはできませんでした。晴れていれば、ミシャベル山群やサースフェーを囲む4000m級の山々を眺めながら歩ける、素晴らしいルートだったと思います。
でも、ガスに包まれた岩稜。突然現れるシャモア。小雪が舞う3000mの世界。そして最後に歩いた短い氷河。晴天の日には見ることのできない、もう一つのアルプスの表情を体験することができました。絶景だけが山の魅力ではない。そんなことを感じたヴィア・フェラータでした。
サースフェーからストラスブールへ帰路
14:00頃。
サースフェーに戻り、宿泊していたwellnessHostel4000へ。まずは暖かいコーヒーを飲みながら、今後の予定を考えます。本当なら、どこか別の村へ寄り道してから帰る予定でした。
しかし……天気は下り坂。そして、3日間続いた山歩きの疲れもかなり残っています。無理をせず、このままストラスブールへ戻ることにしました。
帰りのルートは、以下の通りです。
- 🚌 Saas-Fee 14:22発 ➡️ Visp(15:12着)
- 🚃 Visp 15:28発 ➡️ Basel(17:29着)
- 🚃 Basel 17:51発 ➡️ Strasbourg(19:09着)
長い移動でしたが、スイスの公共交通機関は本当に便利です。山奥のサースフェーからでも、乗り継ぎを利用すれば一日でフランスまで戻れる。改めてスイスの交通網の素晴らしさを感じました。
2日間のサースフェー滞在を終えて 🇨🇭
今回のサースフェー旅行。最後の日は天気に恵まれず、ミッタグホルンからの絶景を見ることはできませんでした。しかし、振り返ってみると、とても充実した2日間でした。初日はイェギホルン(Jägihorn, 3206m・K5)で刺激的なヴィア・フェラータ。その後は、ホーサース(Hohsaas, 3200m)から4000m峰が連なる壮大な景色。そして最終日は、ガスと雪の中でミッタグホルンへ。天候によってまったく違う表情を見せるアルプス。その魅力を改めて感じることができた旅になりました。またいつか、今度は青空の下でミッタグホルンからの景色を見てみたいと思います。
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